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BOOK FAIR CHAMPIONSHIPへの意気込み。復刊本を読んで欲しいです。






この度BOOK FAIR CHAMPIONSHIPにて、
当店の取組「芳林堂書店と、10冊」をベスト10に選んで頂きました。
ありがとうございます。

側から見るとそもそもこれはフェアなのか…?という面もありますし、
他にエントリーされている沢山の素晴らしいフェアがあって、ここから勝ち抜くのは難しそうだぞと現実を認識しておりますので、
開き直ってここで私は企画をしっかりと説明させて頂いて、
フェアの宣伝をしていこうと思います。
BFCにエントリーさせて頂いたのは、より多くの方にこの企画で復刊した本を知って頂くことが目的です。
決して30万円が欲しくてやっているわけではないのです。プライスレスな、より価値のあるものを掴みたいです。

※30万円が欲しくないわけでもないのです。この乙女心をご理解ください。

「芳林堂書店と、10冊」というのは、2023年9月に始めた復刊プロジェクトです。
元々は弊社同グループ内の書泉グランデが、同年に白水社様の『中世への旅』という本を復刊したところから始まりました。
この『中世への旅』の仕掛け人は書泉の大内というクレイジィ書店員で、あちこちでインタビューを受けているので読んで頂くと面白いと思います。
現在では『中世への旅』シリーズは弊社で合計3万部を売る大ヒットとなりました。
弊社限定復刊での取組から広がりを見せ、白水社様は後に一般流通も復活させています。

一定数を買切で仕入れることを条件に、出版社様の負担が少ない形で復刊を提案し、事前予約を自社オンラインサイトで受け付けることで最大数にアプローチして予約を伸ばし、初期設定の最低製作数を超えた場合には弊社もリスクがない合計冊数の増刷依頼をできる。という、お客様には受注生産のような形となりお届けにお時間を頂きますが、そもそも手に入らなかった書籍が購入できることは良いことでもあり、最初に弊社が製作費を負担できさえすれば3方(+著者様も)に利益のあるプロジェクトを始めることができました

このプロジェクトをマイペースに進めて行けば良いのですが、弊社の社長は目標立てして定期実施するようネーミングして御触れを出しました。これが「書泉と、10冊」です。1年間で10冊復刊することを、先はなにも決まっていなかったのに先行してお客様へ打ち立てたのです。そこからは全社員で復刊したい書籍を探す日々。誰も自信は無いけれど、とにかくやるしかありません。

そのとき私は以前に復刊をご相談してお断りされていた『堕天使拷問刑』という小説の復刊を、『中世への旅』の好事例を元に再アタックさせて頂き、早川書房様からOKを頂きました。
『堕天使拷問刑』をリリースすると、飛鳥部勝則作品の復活を待ち望んでいたお客様の注文が殺到。最終的には5000冊の増刷をして頂き、一年以内に完売する大ヒットとなりました。

ここで満足すれば良いのですが、社長の高望みは止まりません。ヒットを受けて「芳林堂書店でも10冊いけるだろう」ということで、新たに「芳林堂書店と、10冊」という名称を打ち立てました。年間10本→20本に目標が増数。この時点では走り切れると思った社員はいなかったのでは…

結果的に言うと、2023年9月から2024年8月の間に、20本の復刊を実施することができました。
以下、ラインナップです。

書泉と、10冊

芳林堂書店と、10冊

書泉の方15冊くらいありますけど(笑)
一年間全社員でアプローチを行い、様々な関係者、著者様方のご協力を得てたどり着いたゴールでした。めでたし…

ここまでの話だと、何がフェアなのか、個人の力量関係なくない?と思われるでしょうが、一応「芳林堂書店と、10冊」の各タイトル(10冊分)を起案したのは私です。もちろん契約や交渉・そのほかのことに関して社内の手厚いサポートを受けながら進めておりますし、それぞれ出版社様からの本当に多大なご協力がなければ実施は到底不可能でした。それでも自分がセレクトした復刊書籍が10冊作れて、並べて店頭展開している様は流石にフェアと言っても間違いではないのではないかと思いたいです。どうでしょうか…

 

さて復刊した書籍を紹介させて頂きます。

①2023/10実施 『堕天使拷問刑』飛鳥部勝則 早川書房
2008年に発売された小説です。仕事柄仕掛けができそうなミステリーを常に探しているのですが、あるとき存在を知って、タイトルや装丁、感想を見てとても気になった作品でした。他の作品と大きく違ったのは、感想を読んでもストーリーやジャンルが全く理解できなかったこと。ミステリーで、オカルト的要素があるけど、青春だし最後には愛の物語だ。って…何言ってんの???って感じです。気持ち悪くて読むのをやめた人がいるのに、感動して泣いている人もいる。なんにも全貌が掴めない。読まなきゃ分からない本ぽいのに古書価格が高騰していて手に入らず、読んだ人は好きか嫌いかに分かれて熱心に作家のことを研究してるから気になって読みたくて仕方ない。という私にとっては謎の立ち位置の作品でした。その時点では飛鳥部先生がご存命かどうかも知りません。後に読んだときに驚いたのですが、てんでバラバラなことを言っていて理解ができないと思っていた読者の感想が、全て的を得たものでした。そういう果てしなく広がった、変で、あり得ないほど面白い小説が『堕天使拷問刑』です。この作品には熱狂的なファンが存在し、遂に2025年1月にハヤカワ文庫化することが決定しました。今はどこの本屋でも購入することができます。未読の方は手に取ってください!
同時に有償特典として「針女」という短編新作を書いて頂きました。『堕天使拷問刑』を好きになった方は絶対読んで。探して読んで。

②③2023/12実施『黒と愛』早川書房『鏡陥穽』文藝春秋 共に飛鳥部勝則著
飛鳥部先生が「ゴシック復興三部作」と位置付ける自作があり、それが『鏡陥穽』『堕天使拷問刑』『黒と愛』です。2005年発表『鏡陥穽』は、分身を生み出すことができる鏡によって引き起こされるあれやこれやのホラーですが、悪用する登場人物の質が悪すぎてホラーを超えた大スペクタクルへと発展していきます。韓国映画で再現して欲しいようなスプラッタ描写も挟みつつ、振り切った作品がお好きな方には堪らない伝説の作品です。『黒と愛』は2011年に発表された飛鳥部勝則最新長編です。『堕天使拷問刑』で虜になった方に順当にお勧めできる、正統進化的な作品であり、読者の期待する方向からの裏切りぶりまで進化している傑作です。何を読まされているのか掴めない、けれど突き抜けて面白い。今のところ最先端の飛鳥部作品となります。

④2024/02実施『殉教カテリナ車輪』飛鳥部勝則 東京創元社
ここまで代表作を読んだらデビュー作を読みたくなりますよね…ってことで1998年『殉教カテリナ車輪』です。鮎川哲也賞を受賞したこの作品は特異な小説で、巻頭に収録される小説の登場人物が描いたとされる絵画4枚は、全て飛鳥部先生がご自身で描かれた絵画です。(飛鳥部先生は画家で、美術教師でもあります)作品中ではミステリの謎解きに加え、絵に込められた意味をも解く「図像学」を盛り込んだ内容となっております。今読んでも、新感覚。そして読後いつまでもこの物語が記憶から薄れないのは、ミステリ以外の叙情的なラストシーンが、心を掴んで離さないからです。
有償特典として、絵画のポストカードセットを作らせて頂きました。
こちらの作品は後に紀伊國屋さんとTSUTAYAさんにご相談して、5店舗くらいに限定展開をして頂きました。買切なのに特別に仕入れて下さって、ありがたかったです。復刊本が有名な書店に置いてある喜び!そのご縁で紀伊國屋書店新宿本店でイベントもさせて頂きました。ありがとうございました。エプロン付けたまま馬場から新宿へ移動という誰も見ていないところでもエンタメ…良い思い出です。

⑤2024/5実施『屍の命題』門前典之 原書房
それまでは飛鳥部勝則先生の作品を復刊しておりましたが、ここで別の著者様の作品を取り扱いさせて頂きました。同じく鮎川哲也賞でデビューされた作家さん繋がりで、門前典之先生の『屍の命題』です。こちらもミステリー。『屍の命題』は最初は『死の命題』というタイトルで鮎川賞の最終候補まで残ったり、その話題と共に自費出版で発売され、デビュー後に満を辞して原書房様から改稿・改題の後リリースされました。いつの場面でも求められた、いわく付きの作品。この小説を思い浮かべるときには、一つの強烈なイメージが離れません。巨大な兜虫の亡霊です。その語り継がれるどでかいアイデアを堪能するのが、最高に面白いです。雪山の山荘。そして誰もいなくなった。もっと多くの方に読んで頂きたい作品です。
有償特典として、新作短編をお書き頂きました。この短編、門前先生のファンには絶対に読んで頂きたい、サービスに満ちた面白い話です。申し訳ないですがこの小冊子も絶対読んで欲しいです。

⑥⑦2024/7実施『異形博覧会』井上雅彦『バベル消滅』飛鳥部勝則 角川文庫
ここへきて、KADOKAWAさんと一緒に復刊企画を実施させて頂く機会を得ました。『異形博覧会』は、〈異形コレクション〉の監修でお馴染み、井上雅彦先生のデビュー作が収録された角川ホラー文庫の短編集で、現代のホラー作家が全員若い頃に通ってきた傑作で、重版を繰り返してきたにも関わらず、何故か現段階では版元在庫ゼロ。電子書籍もなしと、罪深い状況が続いていた作品です。今年は井上先生の新刊も発売されて、それを読んだ方はひっくり返ったと思うんですが…井上先生の作品、キレッキレで圧倒的なんですよね。そんな今も超プレイヤーの先生が編み続けて業界に多大な貢献をしていらっしゃる異形コレクションの功績と面白さは他に並ぶもののない偉大なものです。なのに新刊書店で手に入らない『異形博覧会』!いつの世も本屋にあるべき『異形博覧会』!
並んで復刊させて頂いたのは飛鳥部先生の『バベル消滅』です。なんとこの作品の文庫解説は、井上先生がお書きになっています。(電子書籍だと解説はカットされてるんですよ!これが。)飛鳥部先生の作品を読み、異形コレクションへの寄稿を依頼する形で、短篇を書くことをスタートさせたのは、他ならぬ井上先生でした。そして時を経て再び飛鳥部先生の存在と、作品を読者に届けて下さったのも井上先生。このお二方の作品を同時に復刊できたことはとても嬉しいことでした。
また、このときにはじめて有償特典の冊子を自社で作りました。各先生に執筆を依頼し、インデザインを勉強し、校正ができる外部の方に依頼し、本を仕入れて売ることしかしていなかった段階から、明確に一歩踏み出した瞬間でした。寄稿して頂いた短編は、掛け値なく素晴らしいものです。飛鳥部先生の短篇は章を受賞しても良いくらい真に迫ってくる恐怖と恍惚の瞬間です。そして井上先生が書き下ろして下さった短篇は、私の2024ベストです。『異形博覧会』から、今を繋ぐ遥か高みの、神業を見ていると感じました。この小冊子は二つの本のセットと同時に購入することができます。手に入れてください!

⑧2024/8実施『猿駅/初恋』田中哲弥 早川書房
そして次は〈異形コレクション〉繋がりでの『猿駅/初恋』です。この本は「想像力の文学」シリーズの第一回配本作品でした。改札を抜けると、そこは一面の猿。幻想的で容赦のない世界の中で、ユーモアがこちらの頭を破壊しに来ます。何のために小説を読むのか。理由は多岐にわたりますが、狂うための読書にはオススメの作品です。風景が溶け、見たことのない光景の中で、脳を直に弄られて「笑う」スイッチを入れられるような体験をしたい方はぜひ。
田中先生はこの企画で新作短編を書き下ろして下さいました。有償特典として小冊子付で販売してます。こちらの短編もまたドラッギーな酩酊感と目まぐるしく変わり続ける都度新鮮で追いつけない場面の連続に圧倒される名作となっております。恐怖で、笑える。読んで欲しいです。

⑨⑩2024/8実施 飛鳥部勝則著『ヴェロニカの鍵』文藝春秋『レオナルドの沈黙』東京創元社
この頃にはもう、飛鳥部先生の作品をいつか全部復刊しちゃえ!と思っていて、それまでにタッグを組んだ2社様がお持ちのタイトルを復刊させて頂きました。『ヴェロニカの鍵』は画家が主人公の、『殉教カテリナ車輪』的な流れを汲む作品で、正統な本格ミステリという感じです。帯は有栖川有栖先生。個人的にはこの作品のキャラクターや会話がとても好きだということと、飛鳥部先生にまつわる誤解や、謎の憶測を払ってくれる作品だと思っているので、今後に向けてとても重要だと捉えています。『レオナルドの沈黙』は、個人的には楽しい名探偵もののミステリー。飛鳥部先生が生んだ名探偵といえばこの作品の登場人物です。その活躍ぶりや、美術や芸術家にまつわるトピックも楽しいシリーズ化を今からでも期待する一作です。(あらすじに名探偵登場の第一作!と書いてあるので、読者はみんな期待しているんです)

上記10作品を復刊させて頂き、ギリギリ「芳林堂書店と、10作」は完結しました。
ただこれで終わるわけがなく、現在は2周目、第二シーズンに突入しているのでした…

Ⅱ①2024/12実施『フィフス』飛鳥部勝則
この本は厳密には復刊ではありません。2010年に発表された短編を、同人誌として出版させて頂きました。そもそも何故復刊施策をしているのかというと、読者が読みたくても手に入り辛いものを再び帰るようにするということが核ですので、一度雑誌に載ったきりの短編で、なかなか短編集が発売されない場合の勿体無さをなんとかしたいという思いの中で、ならば一度自分たちで本を作ってみて、作品単位での復活ができるようになればもっとこのフェアも自由に展開可能なのではないかというチャレンジです。「フィフス」は飛鳥部勝則先生が、エンタメに最大限振って書かれた異色作で、より多くの読者を魅了する可能性を持っています。大好きなイラストレーターの鈴木康士先生に装画を描いて頂き、最強の同人誌を作りました。

本屋なんだから本作ったってなにも意外じゃないんですが、そういえば作ろうって思ったことなかったです。

Ⅱ②2025/01実施『アマチャ・ズルチャ』深堀骨 早川書房
2023年に発売された本の中で強烈なインパクトを残した作品がありました。その名も『腿太郎伝説(人呼んで、腿伝)』人の腿から生まれたというダジャレから奇想を広げまくった深堀先生にしか書けない不思議な小説です。聞けば深堀先生はデビュー作が評価された後、20年後の二作目の単行本発売で、処女作『アマチャ・ズルチャ』は絶版状態で未文庫化だと…え、絶対読みたいやつじゃないですか。その後色々早川書房様とお話を進めていたら、なんと初版の在庫が奇跡的に若干倉庫に眠っていたということで特別販売を実施。Xで告知したところ、即完売の上に『アマチャ・ズルチャ』は無いですかという問い合わせがその後1ヶ月店舗に寄せられ続けるという市場の深堀ファンが顕在化することとなり、かくして復刊の運びとなりました。この作品はアイデアやギャグ的な部分と、物語を貫くクールで骨太な思想が読んだことのないバランスで堪りません!そんな寡作の先生に新作を書いて頂いて購入者全員に無料配布するという大大大サービスを致しますので復刊を手に入れて頂きたいです!

Ⅱ③2024/12実施『バラバの方を』飛鳥部勝則 徳間書店
復刊をここまで続けてきて感じたのは、「ノベルスの限定再生産はほぼ不可能」ということです。考えてみればノベルスって殆ど出版自体されていないので、生産ラインも縮小されてるみたいなんですよね。その中で小規模の重版のために資材などをおさえるのは難しいと納得していたのですが…なんと徳間書店様が復刊をしてくださることになりました。『バラバの方を』は絵画・美術的なものと、その後に大きく顔を出す怪奇的な要素の両方の性質を持つ、作品群の中でも真ん中に位置する作品だと思います。これぞという見たことない狂気の一夜と、不安と心臓のリズムが上がり続けながら終わる〆。実は作品間に繋がりのある(こともある)飛鳥部ワールドに於いて重要な作品でもありますので、読んで頂きたいです。

思い入れなんていつまでも語れるほど、復刊した作品は全てオススメです。お値段は初版より高くなるのですが、その価値のある作品だと思っております。手に入らない状態で終わっていいわけないです。

強度を備えた作品は、何もしなくても今から100年後とかにリバイバルヒットするかもしれません。今でもそういった小説はありますし、画家だとそういうかたも沢山見ますよね。でも作家が生きて活動しているうちに読者が増えて直接感想が届いたり、再評価されたり、新しい展開に繋がったり、新作を書いて下さって、さらなる代表作が生まれたりするほうがみんな幸せなのではないかと思っています。これは本屋で行っているフェアですけど、実際のところ電子でもなんでも、読者が読みたいと思ったときにすぐにアクセスできる状態になっていたほうが良いです。全ての創作者がなるべく沢山作品を残して、世の中を彩ってくださりますように!

 

 

 

 

余談です。

ここ数年で行った自分がやったフェアの中で、個人的に一番好きなフェアは以下です。

ニューヨークさん大好き。

復刊を、業界のルールとか自分みたいなもんがやってもなみたいないらない思考を超えてとにかくやってみようと思い行動させてくれたのはニューヨークさんです。

https://x.com/horindobaba/status/1575647867309793280

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